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最近、生成系AIのサービスが世の中で多数取り上げられています。
特に、画像生成AIはすごく簡単にプロのような画像を生成できることに、驚きと感動を感じます。
ただ、その一方で著作権問題にも注意を向ける必要があるでしょう。
もし、あなたが生成した画像が、あるクリエイターの心血そそいだキャラクターに偶然似ていた場合どうなるでしょうか。
今回はこの問題に対して政府見解が出たため解説します。
クリエイターのこころが入った大切に扱われるべきオリジナルデザインと似たものを、簡単に生成できる技術が到来しています。
知らずに、権利だけでなくそのデザイナのプライドに土足で踏み込むことは避けたいですね。
おもな画像生成 AI サービスの著作権に対する見解は
3 サービスとも (Stable Diffusionはモデルにより異なる)生成した画像は、生成者の責任のもとで(商用)利用可能になります。
StableDiffusion | Midjourney | DALL・E2 | |
---|---|---|---|
生成画像の所有者 | 基本的に生成者 ※1 | 生成者 | 生成者 |
権利についての補足 | モデルにより権利が異なるため、モデルの規約に従う | 有償プランの場合、複製、2次的著作物の作成、公開、プロンプトと画像そのものにもライセンスを付与。 | あくまでもOpenAIが著作権を主張しない。 商品化するための全使用権(転載権、販売権、商品化権)が認められる |
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つまりは著作権は生成を行った人になり、その生成物にかかわる全権利と責任を負うことになります。
OpenAI のブランドリストに、「OpenAIが生成物を作成しているような紛らわしい表現はしない」と記載があります。
むしろ、主要サービスは権利を放棄しているような感じです。
これはなぜかというと、各サービスは著作権が抱える問題点を理解してそのような条項を明記しています。
つまり、著作権侵害問題です。
要は、サービス側としては
「生成系AIの仕組み上生成物がたまたま著作権侵害を引き起こす可能性があるため、そのリスクを負うことはできない」
ということです。
そのため、利用者が独自に著作権侵害をしないように努力する必要があります。
文化庁と内閣府のAIと著作権についての見解
2023 年 5 月 30 日に、文化庁ならびに内閣府から「AIと著作権の関係等について」という文書が公開されました。
文書では2つのポイントを解説しています。
- 「著作権として守られるもの」の定義は AI であっても同じ
- 「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」の著作権侵害となりえる基準は異なる
それぞれを解説します。
「著作権として守られるもの」の定義
もともとの著作権の考えは
著作権は、「思想又は感情を創作的に表現した」著作物を保護するものであり、
単なるデータ(事実)やアイデア(作風・画風など)は含まれない
引用元:AIと著作権の関係等について
つまりは、著作物 として認識されるポイントから逸脱すると守られない のです。
ポイントは4つ
ポイント | 説明 | 備考 |
---|---|---|
① 思想または感情があるもの | 創作者の思想や感情が含まれていると判断できる部分があれば問題ない。 | 「東京タワーの高さ:333メートル」といった「単なるデータ」など(人の思想や感情 を伴わないもの)が著作物から除かれます。 |
② 創作的であるもの | 模倣したものでなく、他人が容易に再現できないものであれば問題ない。 | 他人の作品の「模倣品」など(創作が加わっていないもの)が著作物から除かれます。また、「ありふれたもの」(誰が表現しても同じようなものになるもの)も創作性がある とはいえません。 |
③ 何らかの形で表現したもの | アイデアだけでは除外ですが、それを文章化されていれば問題ないです。 | 「映画の著作物」を除き、「固定」(録音、録画、印刷など)されている必要はなく、「原稿なし講演」や「即興の歌」なども保護の対象となります。 |
④ 文芸、学術、芸術または音楽の範囲に属するもの | 日本人(老若男女だれでも)が日本で作った左記の範囲のものであればOK | 「工業製品」などは著作物から除かれる。 |
- ある海賊王の物語の場合
- 「ある麦わら帽子をかぶった少年が、海賊の王様になるために航海にでる物語」というアイデアは著作物ではなく
それを作者の想いを込めたイラストにしたら著作物になる
ポイント①②の創作であるという判断はかなり難しいですが、一般的な著作物の定義については例示されています。
公開文された文書は
「著作権として守られるもの」の定義をベースにして
「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」
を分けて方針を決めています。
「AI開発・学習段階」の考え方
これによると
原則、学習データは著作権者の許諾なく利用できるが、著作権者の利益を不当に害したり、限度を超える場合や、元の著作物の本質的な特徴を引き出す(まねる)ことを目的として行為は著作権侵害となる可能性があります。
つまり、
元の著作権者が本質としている(または感じている)部分を表現できるモデル作成は原則認められない
ということになります。
「生成・利用段階」の考え方
一方で生成・利用段階といえば、モデルを利用する人側になりますが、通常の著作権侵害の判断と同様になります。
つまりは、いかなる手段(手で書こうがAIで書こうが)でも、通常の著作権侵害の判断と同様になるということです。
つまり整理すると
学習時にデータ利用する場合と生成したものを利用する場合で、著作権侵害に対する注意すべき考え方(適用法)が変わります。
学習モデル作成時に注意すること
学習データを収集する際に、特定の画風(著作権で保護されている)をピンポイントで収集し対象の画風を目的にした学習をする場合は、許諾が必要になります。
それ以外の目的が明確ではないランダムに取得し学習する場合は、許可なしに利用することが可能となります。
つまり、 などで、あるアニメのキャラクターを再現できる LoRA(Stable Diffusion のモデル再学習拡張機能) を作成するなどの行為は、違法になります。
この界隈は結構悪い意味で盛り上がっており、著作権の裏をかいた「画風をまねる」LoRA が販売サイトに出回ることも実際に発生しているようです。
この場合は、その画風のクリエイターさんの利益を不当に害することになるので、著作権侵害となりそうです。
ただ、一部の AI を悪用する人により、技術の発展を妨げる要因につながりそうで悲しいですね。
今後の動向が気になります。
生成物の利用時に注意すること
AIが生成したからと言って、通常の著作権侵害の解釈は変わらないことになります。
生成した画像が、既存の著作物との類似性や依拠性が認められれば、アップロードして公表したり、複製物を販売したりすると著作権侵害として罰せられる可能性があります。
つまり、明確に著作物をインプットして画像生成したものは違法となります。
画像ファイルをプロンプトに読み込ませる方法は確実にNGですね。
また類似性の証明についても、過去の裁判判例から元の著作物の特徴的なデザインが類似しているかが、基準となります。
人による判断になりますが、だれが見ても同じと感じられる画風は対象になりそうです。
ただし、個人で鑑賞するなどの目的であれば問題ないです。
まとめ
いかがでしょうか。
政府が明文化したので、今後はグレーゾーンが減りそうです。
ただ、今回の発表以降、政府でも知的財産戦略本部(本部長・岸田首相)が「知的財産推進計画2023」をまとめる動きが出ているため、今後も活発な議論がされていくと思います。
生成物を作成しそれを公開する場合は、著作物に敬意を払い注意してください。
なお、わたしは法律家ではありませんので、誤解や勘違いが含まれる可能性があるため、最終的な判断には法律家に相談してください。